ウッキーズ 加藤寿宏(かとう・としひろ)さん
―どのようなプログラムがありますか?
加藤 当社は川のプログラムがメインです。人気は「のんびり川下り」といって1歳からできる川下り。ラフティングのボートを使ってゆっくりと自然を感じながら川を下るツアーです。
ほかにはカヌーツアーや、カヤックツアーがあります。最近は1人乗りカヤックの人気があるのでしょうか。家族で参加され、それぞれが1人乗りのカヤックに乗って川を下るツアーも、お客さまの要望に応えるかたちで実施しています。
―コースはどこですか?
加藤 川のフィールドは空知川の中流域、富良野の市街地から少し下った部分をコースにしています。同じ部分でもラフトボート・カヌー・カヤックと乗り物が変われば迫力がだいぶ変わってきます。
わたしも始めは上流部で激しいラフティングのガイドをしていましたが、上流部では小さな子どもたちが乗れないのです。家族で来ると、どうしても、お母さんと小さいお子さんだけがベースで待っているという状態を見てきました。ペット同伴の場合、愛犬もそうです。せっかくの家族旅行なのに、みんなで参加できなくて、もったいないなあと。だったら、家族全員が参加できる場所に移そうと思って現在のエリアにしたのです。
たまたま、見つけたコースが誰も使っていないコースだったことも決め手でした。自分自身もアウトドアするなら、人に会わないコースのほうがいいやと思っていたので(笑)。2006年の開業以来使っています。富良野のまちに近いこともあり、移動時間が短いことも利点です。
―どのような雰囲気ですか?
加藤 サラリーマンを辞めるきっかけになったことに、カヌーイストの中では有名なカナダのユーコン川に行ったことがあります。2週間くらいカヌーで川旅をしました。ここが、その時の景色に似ていたのです。景色は、北海道のドーンという雄大な雰囲気。僕にとってはピタッとはまり込んだ場所だったのです。
空知川周辺は、春夏秋冬がわかりやすい場所。新緑の緑から深い緑になり、お盆が過ぎるとちょっと褪せてきてやがて紅葉になって雪が降る。すごくいい場所です。
―ユーコン川に行くまでは?
加藤 静岡県生まれで、子どものころから自転車が大好きでした。自転車の三角形部分の部品であるフレームをつくる職人になりたかったのです。そこで東京に行ったのですが、都会の生活になじめず。地元に戻ってきて、自動車の関連会社で働いていました。
当時、たまたまカヌーに出会って乗っていたのですが、ショップのオーナーがカヤックというものもあり動きがあって面白いよと。カヤックに乗ってみたらハマってしまいました。愛知県の豊川や木曽川といった激しい川を下って遊んでいました。
ある時、北海道旅行をしました。たまたまライダーの人と一緒に野宿をしたんです。その後その人から「ある雑誌に載ったから見て」という連絡をもらいました。記事では、「日本1周を目指していたけど時間切れでできなかった」。そんな内容を読んで、自分も感化されました。今ある時間で何ができるのか、を自問しました。ちょうどいいツアーがあったので、ユーコン川に行くことにしたのです。有給休暇と夏休みをあわせて。上司にはさんざん怒られましたけれど(笑)。29歳の時です。
―北海道へ移住するきっかけは?
加藤 ユーコン川から戻ってきたころ、仕事や人生にもやもやとしていました。体には帯状疱疹もできるほど。そんなころ、カヤックのインストラクター試験があったのです。4日間の泊まり日程。たまたま相部屋になった人が北海道のラフティングガイドの人でした。その人から、「もやもやしているんだったら、ウチにおいでよ」と。十勝アドベンチャークラブ(TAC)のスタッフでした。それで30歳の時、北海道に移住することにしたのです。なので、ラフティングの操船は十勝で覚えました。
もともとサラリーマンのころは、後にペンションをやりたいなと思っていました。北海道に移住する直前、冬に白馬でペンションの居候をしてみたのです。実際に仕事をしてみると「いやあ、ペンションって大変だなあ」と(笑)。これは自分ではできないなあと思いました。でも、アウトドアガイドになれば、ガイドだったらやっていけるのかなあと。なんとなくのイメージがありました。
―なぜ、富良野に?
加藤 妻と知り合い結婚することになって、どこで生活をしようかと拠点を探していました。知人が「ここ富良野はいいところだから、もしよかったら来たら?」と。その富良野の知人の会社を訪問して、冗談で「空き家探しにきたわ」と言いました。すると、隣の机にいたおばさんが「ウチのおじいちゃん家が空いているよ」と。すごくありがたい巡り合わせがあってその家に住むことに。今に至っています(笑)。
―仕事のスタート時はどんな状況でしたか?
加藤 ガイド業のスタート時には、自分でパソコンでチラシをつくってホテルやレンタカー屋さんとかに置いてもらいました。初年度はお金もないのでモノクロ印刷。でも、なんとなくお客さまが来てくれて。なんとかやってきました。ちょっとずつ、参加者も増えてきてありがたいことだと思っています。
最近は、スタッフを1人増やしました。ぼくらも家族が増えてきて、会社的にはもうひと超えを目指さなければというところです。新しい展開をつくっていく段階。3年前から森のプログラムも開始しました。「ハイランドふらの」さんの近くの森をお借りして。小学生くらいの子ども向けですが「森の宝探し」と題して、森に住む動植物を探して、生き物つながりで、森と川の生態を案内しています。都会にはない、自然。森と川がつながっていて、かけがえのない水があって、ということを伝えています。
「森は水をたくわえるにはとても重要なんだ」といったことを感じてほしいと思っています。北海道旅行から帰って自分の生活に戻った時に、なんとなく水のことにおもいをはせてもらえたらうれしいなあと。
―今後の抱負をお聞かせください
加藤 最近、環境教育ということばを聞く機会が増えてきました。ぼくらも自然の中にいて、自然を感じる人間なのでひとつでも知識や知恵を持ち帰ってもらいたい。「ただ楽しい」ということも大切なのですが、楽しめた理由のひとつが、こういうことなんだよということを伝えていきたいと思っています。
今年2019年、48歳になります。10年後もまだカヌーやカヤックを漕げるのかなと(笑)。富良野は花観光が有名ですが、お花には土が必要で、おいしい農作物にはいい土が必要で、とか。いい土には水が必要でと。次の世代の子どもたちに、こういった自然環境に関する話をしていきたい。
世界では水の争奪戦が起きています。身近なところから、自分たちのできることから始めたいと思っています。伝えられて、参加者の行動につながればいいなあと思っています。
本文敬称略